事業革新に取り組むための「イノベーション手法ポートフォリオ」

innovation method portfolio

Innovation method portfolio useful for business innovation

新型コロナにより、社会の在り方が大きく変化しつつあります。厳しい行動制限が解除された後の「Post Corona」の時代においても、私たちは新型コロナと折り合いをつけて生活していかざるを得ないため、「Before Corona」と同じ姿に戻ることはないでしょう。

さて、経済の担い手である企業は、あらゆる分野において急速に進展するデジタル化への対応のため、コロナ以前から「DX」、すなわちデジタル変革の推進に取り組んできました。とはいえ、旧来の慣れ親しんだやり方からの脱却は簡単ではなかった。ところが、新型コロナという非常事態によって、ほぼすべての企業が、デジタルを活用した事業革新に本腰を入れざるをえなくなりました。

今回は、事業革新に取り組むために役立つ様々な手法の位置づけについて解説します。

下図に示したのは、4つの次元で各種革新手法を位置付けたものです。「イノベーション手法ポートフォリオ」と呼ぶことにします。

横軸:内的(Internal)  ⇔ 外的(External)

横軸は「内的(Internal)」と「外的(External)」の2つです。

「内的」とは、社内のやり方、プロセス、資源などに焦点を当てるものです。一方、「外的」は、顧客や競合他社など、外部の情報を積極的に活用します。

縦軸:分析的(Analytical) ⇔ 創造的(Creative)

縦軸は「分析的(Analytical)」と、「創造的(Creative)」です。

「分析的」とは、文字通りものごとを構造的・分析的に捉えるもので、しばしば定量的なデータの活用が前提となります。

一方、「創造的」とは、ものごとを多面的に捉え、新たな価値を見出そうとするアプローチです。


それでは、4つの次元それぞれに含まれる手法について簡単に解説しましょう。(それぞれの手法の詳細な解説は各自、Google検索などでお調べください)

分析的 x 内的

現在のやり方を強化するアプローチです。ここには、TRIZ、制約理論、リーンマネジメント、シックスシグマ、BPR(Business Process Re-engineering)が含まれます。革新(Innovation)というよりは、主に改善(Improvement)のための手法です。現在の業務プロセス、業務内容を把握し、非効率性、ボトルネックなどの問題点を発見し、改善施策を講じます。組織再編も含めた、全社的に根本的な改善を行うのがBPRです。

これらのアプローチは、特にムリムダの削減による生産性向上を通じたコスト削減に効果があります。

なお、この次元において、ファクトベースでの価値ある分析手法を提供できるのが「プロセスマイニング」です。

分析的 x 外的

外部にあるよりよい方法を取り込むアプローチです。この次元には、ベンチマーキング、参照モデリングが入ります。

ベンチマーキングは基本的には、他企業の優れた取り組みと自社を比較して、劣っているポイントを明確化する取り組みです。また、参照モデリングは、自分の業界で標準的な手順、あるいは優れた手順を自社でも採用することでクイックな成果を目指します。

創造的 x 内的

社内に存在するがまだ活用されていない方法を試すことです。ここには、ポジティブな逸脱やクラウドソーシングが入ります。

ポジティブな逸脱とは、現在主流となっている事業や、人、手順ではなく、傍流にある異端的な事業や、人、手順に着目し、それを全社に展開するような取り組みです。企業内では、異端的なものはしばしばネガティブな「逸脱」と見なされてあまり評価されず、修正を求められます。しかし、こうした逸脱の中には、新たな環境変化に対応できる革新的な事業、人、手順が含まれていることがあるのはご存知でしょう。

クラウドソーシングは、外部的な要素も多分にありますが、様々な知識、知恵、経験を持つ多様な人材を社内資源と組み合わせることで、自社だけで議論していても発想できなかった新たなアイディアを創造します。

創造的x外的

自社資源に頼らず、新たな方法を創造するアプローチです。SCAMPER 、デザイン思考が含まれます。

ここでは、様々な制約を取り払ってものごとを多面的に考え、また対象顧客を注意深く観察することなどを通じて、柔軟な発想を最大限に発揮しようとします。


さて、以上のアプローチのどれが貴社にとって最適かはケースバイケースであり、一概には言えません。

ただ、ポストコロナの厳しい経済環境においてはまずコスト削減から取り組むべきであり、分析的・内的アプローチである、リーン、シックスシグマなどから事業改善をスタートさせるべきと考えます。業界標準のやり方を取り込む参照モデリング、他社の優れたところを参考にするベンチマーキングも有効でしょう。

ただし、前述したように、分析的なアプローチは現状のやり方の改善までは可能ですが、新たなビジネスモデルを生み出し、イノベーションを実現することは得意ではありません。

例えば、飲食店が、シックスシグマなどにより、来店客に対する店内オペレーションの改善にどれだけ取り組んでも、ステイホームにより高まるテイクアウト需要に応えるための新たな手順を生み出すことはできないのです。

そこで、まずは分析的アプローチで生産性の向上、コスト削減に取り組みつつ、環境変化に適応して売上を大きく伸ばすために採用すべきなのが創造的なアプローチです。

近年、デザイン思考が注目を浴びましたが、最近ではさらにクリエティブな要素が強い「アート思考」のアプローチも登場してきています。

現在のような大きな環境変化においては、事業革新、すなわちビジネスイノベーションが欠かせません。分析的アプローチで足元を固めつつ、創造的アプローチで新たなビジネスモデルを生み出すことが現在の企業には求められていると思います。

(参考文献)

From Product Innovation to Organizational Innovation – and what that has to do with Business Process Management, Jan Recker (PDF)

シックスシグマとプロセスマイニング

dmaic & process mining

Six Sigma approach should be used with process mining
English follows Japanese. Before proofread.

率直に言えば、プロセスマイニングは、現状の業務を把握するための業務分析のひとつに過ぎません。

もちろん、従来の現場担当者へのヒアリングや観察調査よりもはるかに正確に、かつ効率的に業務分析を行うことができるのがプロセスマイニングであり、だからこそ近年、急速に注目が高まっています。

企業・組織においてプロセスマイニングが活用される場面は、多くはBPR(Business Process Re-engineering)、あるいは業務プロセス改善(Business Process Improvement)の取り組みであり、プロジェクトでしょう。

したがって、分析手法としてのプロセスマイニングの手順を理解しておくだけでなく、BPR、あるいは業務プロセス改善の手順やフレームワークを理解し、活用することが重要です。

BPR、業務プロセス改善のアプローチに様々なものがありますが、シックスシグマの方法論を土台として採用するのがベストと考えます。

シックスシグマは、トヨタ生産システムの考え方を元に、モトローラが開発した業務プロセス改善手法です。つまり、日本で生まれたフレームワークが多く含まれています。

さて、シックスシグマにおける業務プロセス改善プロジェクトの進め方は「DMAIC」として知られています。以下の5つの活動フェーズの頭文字を取ったものです。

  • Define(定義)
  • Measure(測定
  • Analyze(分析
  • Improve(改善)
  • Control(定着・管理)

それぞれの活動フェーズとプロセスマイニングの関係について簡単に説明します。

Define(定義)

まず、改善した対象のプロセス、また想定される問題・課題を明確化します。基本的には、残業多く従業員が疲弊している、納期遅れなどで顧客からのクレームが増えているなど、現象として把握できる問題を起点として、それがどのプロセスのどこに問題がありそうかの当たりをつけて、改善対象としていきます。

ここは、プロセスマイニングプロジェクトの「スコーピング」、すなわち「分析計画立案」の前提となるフェーズです。

Measure(測定)

現状を把握するために必要なデータ・情報を集めます。前述したように、従来は、現場担当者へのヒアリング、観察調査、また関係者を一同に集めたワークショップを開催して、現行業務プロセスの棚卸しを行うのが定番です。

プロセスマイニングでは、上記のような情報収集方法に加えて、ITシステム上での業務遂行履歴データである「イベントログ」を抽出し、分析対象とします。

プロセスマイニングから得られたプロセスモデル(as isプロセス)は、事実ベースの正確な業務プロセスの再現を可能としますが、システム以外で行われている業務は当然ながら把握できませんので、ヒアリングや観察調査による補完が不可欠です。

Analyze(分析)

前フェーズで得られた情報・データに基づき様々な視点で分析を遂行します。

プロセスマイニングを採用したプロジェクトでは、まずイベントログからのプロセスモデルを元に、業務遂行に時間がかかりすぎている、非効率な箇所や、業務の滞留が発生しているボトルネックを容易に発見できるため、そうした現象としての問題が特定できた箇所について、ヒアリングや現場調査の分析を掘り下げることが可能となります。

プロセスマイニングを採用しない場合、現場ヒアリングは「なにをどのようにやっていますか(What、How)」という問いから始めなければなりませんが、プロセスモデルを見ながらであれば、「なぜこうなるのでしょうか(Why)」の問いが行えるので根本原因の追求が行いやすいと言えます。

Improve(改善)

現象として見える問題・課題(非効率性やボトルネック等)の根本原因が解明できたら、具体的な改善施策を練り、改善活動を行うことになります。実行段階ですから、プロセスマイニングはいったん舞台袖に引っ込むことになりますが、次のControl(定着・管理)に備えて、着々とイベントログは蓄積されています。

Control(定着・管理)

最後は、改善された業務プロセスの定着と管理です。以前より優れた業務プロセスを開発でき、現場に展開したとしても、そのままほおっておくと、再び旧来のやり方に戻ってしまう、ということが起こりえます。

したがって、新しいプロセスが定着するよう、継続的な監視と適切な指導が必要です。ここで、プロセスマイニングを活用すれば、ITシステム上で日々遂行される操作履歴データをリアルタイムで抽出・分析し、現在遂行中の案件についての逸脱や問題個所をすばやく発見、アラートを出すことが可能となりますので、新業務プロセスの確実な定着を促進できるのです。


Frankly, process mining is just a business analysis to get a handle on what’s going on.

Of course, process mining is able to conduct business analysis much more accurately and efficiently than conventional interviews and observational surveys with field staff, and for this reason, it has rapidly gained attention in recent years.

In many cases, process mining is used in BPR(business process re-engineering) or business process improvement projects.

Therefore, it is important not only to understand the procedure of process mining as an analytical method, but also to understand and utilize the procedure and framework of BPR or business process improvement.

There are various approaches to BPR and business process improvement, but I think it is best to adopt Six Sigma’s methodology as a foundation.

Six Sigma is a business process improvement method developed by Motorola based on the Toyota Production System concept. That is, it includes many frameworks that originated in Japan.

The process improvement project at Six Sigma is known as the “DMAIC”. It is an acronym for the following five phases of activity.

  • Define
  • Measure
  • Analyze
  • Improve
  • Control

A brief description of the relationship between each activity phase and process mining.

Define

First, identify the processes that need to be improved, as well as potential problems and issues. Basically, problems that can be identified as phenomena, such as excessive overtime and exhausted employees, or an increase in customer complaints due to delivery delays, are identified and identified as problems in which processes are likely to have problems, and are targeted for improvement.

This is the prerequisite phase of the process mining project “scoping” or “analysis planning”.

Measure

Collect the data and information needed to understand the current situation. As mentioned earlier, it has traditionally been customary to hold interviews with field staff, conduct observation surveys, and hold workshops with all concerned parties to take inventory of current business processes.

In process mining, in addition to the information gathering methods described above, “Event Log”, which is historical data of business performance on IT systems, is extracted and analyzed.

The process model (as is Process) obtained from process mining enables accurate reproduction of fact-based business processes. However, it is of course impossible to grasp the operations that are being conducted outside of the system. Therefore, complementation through interviews and observational surveys is essential.

Analyze

We conduct analysis from various perspectives based on information and data obtained in the previous phase.

In the case of a project using process mining, based on a process model derived from an event log, it is possible to easily find bottlenecks where work is taking too long, inefficient, or stagnating, so that it is possible to delve into the analysis of interviews and field investigations where such problems have been identified.

If process mining is not adopted, field interviews must begin with the question, “What are you doing and how are you doing it? (What, How)” However, if you look at the process model, you can ask the question, “Why does this happen? (Why)” making it easier to pursue the root cause.

Improve

Once the root causes of problems and issues that appear to be phenomena (Inefficiency, bottlenecks, etc.) have been clarified, specific improvement measures will be formulated and improvement activities will be carried out. Since it is the execution stage, the process mining is retracted to the stage, but the event log is steadily accumulated for the next Control (establishment and management).

Control

The last is to establish and manage improved business processes. You can develop better business processes and deploy them in the field, but if you leave them as they are, you can go back to the old ways.

Therefore, continuous monitoring and appropriate guidance are needed to ensure that new processes take root. By utilizing process mining, it is possible to extract and analyze in real time operation history data that is executed on an IT system on a daily basis, and to quickly find deviations and problem points in an ongoing project and issue alerts, thereby ensuring that new business processes are implemented.