The Road from Process Mining to Augmented Business Process Management (Japanese ver.) – Marlon Dumas

augmented BPM pyramid

当記事は、Tartu大学教授、Marlon Dumas氏の掲載許諾を得て日本語に翻訳したものです。日本語での理解がしやすいよう、多少補足・意訳している箇所があります。日本語版の文責はすべて松尾にあります。

Marlon Dumas氏は、BPM(Business Process Management)、Process Miningの研究者として世界的に著名です。オープンソースのプロセスマイニングツール、「Apromore(アプロモーレ)」を開発販売するApromore Pty Ltdの共同創業者でもあります。

また、世界の多数の大学において、BPMの教科書に採用されている『Fundamentals of Business Process Management』の共著者です。なお、『Fundamentals of Business Process Management』の日本語版が2022年中に刊行予定です。


The Road from Process Mining to Augmented Business Process Management

プロセスマイニングから拡張ビジネスプロセスマネジメントへ

– Marlon Dumas, Professor at University of Tartu | Co-founder at Apromore

ビジネスプロセスマネジメント(BPM)の分野において、2021年はわくわくする一年となった。プロセスマイニング、タスクマイニング、デジタルプロセスツイン、予測プロセスモニタリングなどの分野で、導入の成功事例や報告が相次いだ。

そして、これからやってくるものがまだある。私たちは、BPMに対する新しいアプローチの誕生を目の当たりにしようとしているのである。データ分析と人工知能(AI)の手法を活用して、継続的なプロセス改善を実現するアプローチである。私たちはこのアプローチを拡張BPM – Augmented BPM –と呼んでいる。

2022年には、拡張BPMの方向にさらに歩みを進めることになるだろう。この記事では、拡張 BPMの出現をもたらす潮流と、これらの潮流から、組織がどのように利益を得られるかを探っている。


拡張 BPMとは?

拡張 BPMとは、データ分析とAIに基づき、プロセスの設計時と、プロセス実行時の両方でプロセス改善の意思決定を行う、ビジネスプロセス管理のアプローチである。

拡張BPMは、個々のタスクの実行や意思決定の自動化(例:機械学習コンポーネントを使用して顧客の苦情を分類する)に、分析やAIを使用する以上のものである。それは、分析とAIを全面的に利用して、ビジネスプロセスを継続的に監視し、適応させ、また再設計することである。

拡張 BPM ピラミッド

拡張 BPMがカバーする範囲をよりよく理解できるよう、図1に示したような「ケイパビリティ(能力)のピラミッド」として概念化した。

augmented BPM pyramid
図1 拡張BPMピラミッド

最下層には、「記述的プロセスマイニング – Descriptive Process Mining -」がある。(これは、従来のプロセスマイニングの領域である)プロセスマイニングは、企業システムから抽出したデータセットを用いてビジネスプロセスを分析する技術である。これらのデータセットはイベントログと呼ばれる。イベントログは、ビジネスプロセスの文脈においては、アクティビティ(またはアクティビティ内のステップ)の実行を捕捉した記録の集合体である。

プロセスマイニングには様々な技術が含まれるが、これらは4つのケイパビリティ領域に分けられる。

自動化されたプロセス発見 – Automated Process Discovery

データからプロセスモデルを発見し、プロセスの主な経路や例外を明らかにし、無駄(反復・手戻りや、過剰な処理など)を浮き彫りにする機能。

適合性検査 –  Conformance Checking

コンプライアンスルールの違反(請求書のない購買発注など)や、観測された実際の手順と、準拠すべき規範的手順との乖離など、望ましい手順からの逸脱を検出する機能。

パフォーマンス・マイニング – Performance Mining

定量的なパフォーマンス指標をプロセスの要素に結びつける機能。例えば、SLA(Service level Agreement)に対する違反に関わるボトルネック、反復・手戻りの繰り返しがもたらす過剰なコストや無駄を明らかにする。

バリアント分析 – Variant Analysis

異なるサブセットのケース(例えば、地域別)でプロセスがどのように実行されているかを比較することにより、プロセスにおける好ましい、あるいは好ましくない逸脱を識別する機能。

これらの機能により、ボトルネック、反復・手戻り、コンプライアンス違反などの摩擦が起きている箇所を特定し、その原因やKPI(主要業績評価指標)への影響を調査することができる。これらの機能を利用して、継続的なプロセス改善に取り組んでいる企業は多い。

記述的プロセスマイニングは、それ自体が価値のある能力であるが、その長期的な価値は、それが他の豊富な能力につながる扉を開くことにある。実際、組織がプロセスマイニングのために収集した同じデータセットを使って、将来何が起こるかを教えてくれる予測モデルを構築することができる。

これにより、拡張 BPMピラミッドの第2層である「予測的プロセスマイニング – Predictive Process Mining – 」にたどり着く。記述的プロセスマイニングでは、プロセスが過去にどのように実行されてきたかを理解ができる。一方、予測的プロセスマイニングでは、プロセスが将来どのように展開するかを予測する。予測的プロセスマイニングには2つの機能がある。

予測的プロセスモニタリング – Predictive  Process Monitoring

プロセスの将来の状態を予測する機能。例えば、O2C(Order-to-Cash:受注から入金まで)のプロセスでは、顧客が注文した製品が時間通りに発送されるか、あるいは遅れて発送されるかを予測することができる。一般的に、予測的プロセスモニタリングは機械学習技術を用いて実装される。まず、過去のデータをもとに予測モデルを作成し、それをイベントストリーム(現在実行中のプロセス)に適用して将来どうなるかを予測する。

デジタルプロセスツイン – Digital Process Twin

プロセスを変更した場合の影響を予測すること。例えば、ERPシステム上で実行されるO2Cプロセスを考えてみよう。記述的プロセスマイニングを適用することで、プロセスの包装工程でボトルネックが発生し、多くの遅延が発生していることが判明するかもしれない。ここで、プロセスマイニングと機械学習を用いて、デジタルプロセスツイン(DPT)と呼ばれるプロセスの複製を構築する。そして、このDPTを用いて、包装工程にスタッフを追加投入した場合に何が起こるかをシミュレーションする。DPTでは、このような変更やその他の実行可能な変更が納期遅れに与える影響度合いを推定することができる。管理者は、この機能のおかげでプロセス改善行動のROIを推定し、より効果な改善行動を見出すことができる。

プロセスがこの先どうなるかを予測することは役に立つ。しかし、予測が価値を生むのは、それに基づく改善行動があってこそだ。これが、拡張 BPMピラミッドの第3層である「処方的プロセス改善 – Prescriptive Process Improvement- 」である。処方的プロセス改善とは、予測をアクションに変えることであり、1つまたは複数のKPIに関して、ビジネスプロセスのパフォーマンスを改善するために最適なタイミングで実行される仕組みである。

この層では、「プロセスマイニング」から「プロセス改善」へと焦点が移る。プロセスマイニングでは、データからパターンを発見し、そのパターンを使ってプロセスを説明したり、予測を立てたりすることに焦点を当てる。ピラミッドの第3層では、パターンは二の次となり、代わりに、改善アクションを扱う。

処方的プロセス改善には2つの機能がある。

処方的プロセスモニタリング – Prescriptive Process Monitoring

1つまたは複数のKPIに関して、プロセスのパフォーマンスを最適化するためのアクションを、リアルタイムまたはそれに近い状態で推奨する機能。例えば、ある処方的プロセスモニタリングシステムが、バッチ製品の出荷が遅れる可能性を検出したとする。そのとき、遅延の影響を最小限に抑えるため、当該製品を注文した顧客に連絡して、製品を2つのバッチに分けて発送する選択肢を提案することを推奨できるだろう。

自動化されたプロセス改善 – Automated Process Improvement

例えば、不良率やサイクルタイムを最小限に抑えつつ、コストを削減するなど、相反するKPI間のトレードオフを実現するために、プロセスに変更を加えることを推奨する機能。自動プロセス改善システムは、週の初めに発生する特定のボトルネックを軽減するため、一部の担当者の割り当てルールや作業スケジュールを変更するようにプロセスオーナーに提案したり、誤発注を防ぐため、一部の発注書に追加の検証ステップを実行するように提案したりする。

上記のようなレコメンデーションは、行動と結果の間の因果関係を発見し、その関係を利用して、プロセスのどのような場合に(いつ)特定の行動を行うのが最適かを判断する因果推論と呼ばれる技術を用いて作成できる。

処方的プロセス改善では、人間のプロセス参加者に対し、機械が可能なアクションを提案する。人間の参加者は、これらの推奨事項を適用するか、あるいは無視するかを決定する。言い換えれば、システムと人間の参加者の間のやりとりは一方通行である。もし、改善アクションが、人間の参加者とAIとの会話の結果だったらどうだろうか?

これで4層目が見えてきた。「拡張 BPM – Augmented BPM – 」である。拡張 BPMは、ビジネスプロセス実行システムの自律性と、マシンと人間の参加者との間での豊かな対話が行われるという点で、処方的プロセス改善を超えている。拡張 BPMはまだ始まったばかりの概念であるが、すでに2つの特徴的なテーマを特定することができる。

対話的プロセスの最適化 – Conversational Process Optimization

プロセスのパフォーマンスが低下する状況を自動的に検出し、そのパフォーマンス低下の原因を人間のプロセス参加者(プロセスオーナーなど)に説明し、その対策を人間の参加者と議論する機能。例えば、対話型プロセス最適化システムが、ある種類の出荷がしばしば遅れることを検出したら、プロセスオーナーにこれらの出荷の輸送ルート変更をすべきであると提案する。人間の参加者は、ルート変更オプションのうち、いくつかは費用が増える可能性があるために採用しないかもしれない。あるいは、顧客に対して、複数の輸送ルートオプションを提供すると決定するかもしれない。当システムは、顧客の所在地に応じて、各顧客に複数の選択肢を提供することができる。

適応型自動運転プロセス – Adaptive Self-driving processes

自動化されたシステムが、プロセスの中で起こりうる次のアクションを判断し、次に取るべきアクションを決定する。また、人間への引継ぎが必要な状況を検出できる能力のこと。例えば、過去の実行データに基づいて、発注書を受け取った際に行うべき検証手順をシステムが決定することができる。これまでに見たことのない新しいタイプの購買注文をシステムが検出すると、人間の担当者に引き継ぎ、その担当者が、この新しいタイプの注文に対してどの検証を行うべきかを決定する。当システムは担当者の判断を記録しておおり、このタイプの発注書を再び受け取ったときにはそれを適用する。

ピラミッドのこの最後の層では、「プロセス改善」から「BPM」へと移行している。拡張BPMは、パターンを発見したり、プロセス再設計の提案を行うだけではない。拡張 BPMは、BPMのライフサイクル全体を扱うアプローチである。

拡張 BPMの恩恵を受けるために、自社は何ができるか?

多くの読者にとって、拡張されたBPMはあまりにも未来的であり、すぐに行動を起こすには値しないと思われるかもしれない。しかし、ピラミッドの最初の二つの層は、すでに実際に広く活用されている。また、第3の層を支える技術は急速に進化しており、すでに他の分野で成功を収めている。拡張 BPMのピラミッドを登ることで得られる利益は極めて大きい。ピラミッドを登るステップを踏まない組織は、取り残される可能性が高くなるだろう。その機会損失は無視できないほど大きい。

ピラミッドに沿った取り組みを考えている企業は、その過程で重要な3つのポイントを心に留めておくとよい。

1.基礎を固め、登り始め、登り続け、先延ばしにしない。

多くのマネージャーは、「データがない」「データが十分ではない」と言って、プロセスマイニングの導入を先延ばしにする。  確かに、プロセスマイニングのためのデータを得ることはしばしば困難である。しかし、その効果は数千もの成功事例で繰り返し実証されている。プロセスマイニングを行うためのデータを得ることで、多くの扉が開かれる。今日、プロセスマイニングに使用されたデータは、明日には予測的プロセスモニタリングや、デジタルプロセスツインの構築に使用することができる。データの収集と前処理という障害を乗り越えれば、その可能性は無限に広がる。なお、タスクマイニングは、企業システムでは、データ収集が行えない場合に、データ収集のための別の方法を提供することに留意されたい。

2.レイヤを飛ばしてはいけない。

BPMピラミッドの下層部は、上層部からビジネス価値を引き出すための基盤となる。上の層の機能を採用することで最大限の利益を得たいと考える組織は、下の層をマスターする必要がある。

3.戦略との整合を取り、段階的にガバナンスを構築する。

プロセスマイニング、予測モニタリング、また処方的プロセス改善の取り組みは、組織の戦略的優先事項に基づいて行われる必要がある。拡張BPMピラミッドの機能は、何よりもまず、組織にとって重要なビジネスプロセスに適用されるべきである。また、これらのテクノロジーは、1つのプロセスずつ段階的に採用することが重要だ。時間をかけて、ピラミッドのテクノロジーが予測可能、かつ繰り返し価値を生み出すことを保証するために、ガバナンス構造が必要である。しかし、そこに到達する前に、社内でいくつかの成功事例を作り、幹部の支持を得る。そうして、拡張BPMピラミッドのすべての能力が具体的な価値を生み出すことを示すことで、彼らの支持を維持することが重要である。


免責事項、承認およびライセンス


この作品は、タルトゥ大学の教授として書かれたものです。私の研究は、欧州研究評議会(PIXプロジェクト)とエストニア研究評議会から資金提供を受けています。また、オープンソースのプロセスマイニングソリューションを提供するApromoreの共同設立者でもあります。

この記事はクリエイティブ・コモンズ 表示一般ライセンス CC-BY 4.0 (CC-BY 4.0)の下でライセンスされています。

marlon dumas  Marlon Dumas – Professor at University of Tartu | Co-founder at Apromore

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BPM Talk on Process Pioneers

process pioneers talk

YouTube/Podcastとして様々なBPMの専門家との議論を公開しているProcess Pioneersに招かれ、主宰者のDanielと主に日本におけるBPMの取り組み課題について語りました。

視聴ページはこちら

PMIとGBTECが共同で日本企業のBPM活動を支援

pmi gbtec

BPM、プロセスマイニングのコンサルタントグループであるプロセスマイニング・イニシアティブ(PMI)は、ヨーロッパのBPM(ビジネスプロセスマネジメント)のスペシャリストであるGBTEC Software AGと、日本市場におけるBPMソリューションの普及と顧客サポートの強化を目的としたコンサルティング・パートナーシップ契約を締結しました。

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プロセスマイニング最新機能群と課題、今後の進化の方向性

direct follows graphs

Latest Process Mining Functionality, Challenges, and Future Evolutionary Trends

English follows Japanese.

今回の記事では、2021年夏時点における、プロセスマイニングのテクノロジーやソリューションに焦点を当て、機能、課題、今後の進化についてお伝えします。

1 プロセスマイニングの最新機能群

プロセスマイニングは、テクノロジーやツールの側面に関心が行きがちであるが、その本質は、データ分析の理論体系・方法論(Discipline)である。実際、プロセス“マイニング”という言葉でわかるように、データマイニングの一類型と考えることができる。ただし、あらゆる事象を分析対象とする幅広い概念のデータマイニングと異なり、文字通り「プロセス」を分析対象とするのがプロセスマイニングである。その基本となる用途は「プロセスの可視化」であり、プロセスが可視化されたことによって、対象プロセスがはらむ問題点の発見が容易になる。結果として、プロセス改善の取り組みに大きな役割を果たすことができる。

1.1  現在の主要機能

さて、プロセスマイニングは、前述したように「プロセスの可視化」の方法論の確立とツール開発からその研究がスタートしている。それは、業務遂行に使用するITシステムから抽出されたデータに基づき、業務手順を示すフローチャートを自動的に作成する機能であり、「プロセス発見(Process Discovery)」と呼ばれる。その後、研究の進展、ツールの高度化に伴い、様々な機能が実装されてきた。以下は、現在のプロセスマイニングツールの多くが実装している主な分析機能である。

・プロセス発見:


業務手順を自動的にフローチャート化し、作業頻度や所要時間などを算出する

・適合性検査:


データに基づき発見された現状プロセス(as-is)と標準プロセス(to-be)との比較分析を行い、現状プロセスの逸脱を抽出する

・ダッシュボード:


対象プロセスについて、様々な切り口から集計・分析した結果を各種グラフや図でビジュアルに表示する(BIツールと同等)

1.2 最新機能群

さらに、近年では、最先端のプロセスマイニングツールでは、次のような最新機能群が搭載され始めている。

・ビジネスルールマイニング:


 対象プロセスにおいて、フローの分岐(意思決定ノード)が発生している箇所がある場合、その分岐を決定している基準=ビジネスルールをデータに基づいて自動発見する

・シミュレーション(What-If分析)


 プロセス発見機能によって可視化された現状プロセスについて、一部のタスクを排除したり、あるいは自動化したりすることで、どの程度の改善効果が期待できるかをシミュレートする

・運用サポート


 現在仕掛中の案件について、業務遂行に関わるデータをリアルタイムに吸い上げ、業務の逸脱を探知したり、将来の問題発生を予測したりして、担当者にアラートを出す、また最善手を提案する、あるいは自動的に改善施策を実行する。

上記3つの最新機能のうち、ビジネスルールマイニング、およびシミュレーションは、既に完了した案件、すなわち過去データを分析対象としているが、運用サポートは、未完了の案件に関わるデータを逐次処理し、円滑な業務遂行を支援することが主眼である。この意味で、運用サポートは、分析の方法論の枠を超えたITソリューションの一形態とも言えるだろう。このため、プロセスマイニング業界最大手のセロニス社では、当該機能を「EMS(Execution Management System)」と呼んでいる。


2 プロセスマイニングが克服すべき課題

2.1 データ前処理の難しさ

データマイニングでは、全体の所要時間の約8割がデータの収集・抽出、クリーニングといったデータ前処理に費やされると言われる。プロセスマイニングでも同様である。多様なITシステムから抽出された数十~数百に及ぶデータファイルを適切に統合し、抜け漏れ、文字化けなどのダーティなデータを補正し、ツールに投入して分析可能な「データセット」を作り上げる労力は大きい。プロセスマイニングにおけるデータ前処理の難度を高くしている要因としては、データの抽出元が各種業務システムであることから、業務システムへの理解が必要であること、また、業務プロセス改善に資する分析結果を導くためのデータセットを作成するためには、業務自体への理解、また業務改善手法にもある程度通暁している必要があることが挙げられる。

2.2 ツールの分析品質

分析品質については2つの課題を述べたい。一つはDFGs(Directly Follows Graphs)の限界、もうひとつは、Convergence/Divergence問題である。

2.2.1 DFGsの限界

プロセスマイニングの基本機能である「プロセス発見」は、当初、ペトリネットがベースになっていたが、より現実に近いフローチャートを再現するために、様々なアルゴリズムが開発されてきている。ただ、業界有識者の話によれば、現在実用化されているプロセスマイニングツールのほとんどは、ファジーマイナーと呼ばれるアルゴリズムに基づいたもの(各社独自の改善は行っていると思われる)であると言われている。
同アルゴリズムは、一般にDFGs(Directly-follows Graphs)と呼ばれる。ペトリネットや、また業務手順をフローチャートとして記述するための世界標準であるBPMN(Business Process Modeling and Notation)と異なり、ノードとノードが直接(Directly)結びつけられたフローチャートがDFGsである。すなわち、分岐ノードが描かれないため、このアルゴリズムでは、どこでどのような分岐が発生しているのか、具体的には、排他的(OR)なのか、並行的(AND)なのか、といったことが把握できない。このため、現状のプロセスを自動的に再現するとはいっても、分岐が明確でない不完全なものになるというのが現実である。もちろん、これについては、BPMN形式のフローチャートへの自動変換や、前述したビジネスルールマイニングの採用などの機能改善が行われてきている。

図1 Petri net、BPMN、Fuzzy Minerのフロー図例
上図でわかるように、DFGsであるFuzzy Minerには、Petri netやBPMNのような分岐ノードが存在しないため、同じプロセスの表現でありながら、Fuzzy Minerでは分岐のルールを判別することができない。

2.2.2 Convergence/Divergence問題

プロセスマイニングでは、対象プロセスで処理される案件に対して行われる各アクティビティを束ねて、フローチャートを描くために、「案件ID」、「アクティビティ(処理内容)」、およびタイムスタンプの3項目が必須である。例えば、請求書処理プロセスであれば、各請求書に付番されている個別の請求書番号、そして、その請求書に対して行われる「受領」、「確認」、「承認」、「支払い」などのアクティビティをタイムスタンプとともにITシステムから抽出することになる。


 実際のプロセスにおいてしばしば直面するのは、案件IDがひとつではないという点である。具体例を示そう。図2は、エンジニアリング会社の受注から資材調達までのプロセスの一般的なイメージである。受注した機械は、発注企業の仕様に基づいて製造されなければならないため、受注後は、まず設計を行い、次に設計図(Blueprint)に基づいて必要な資材・パーツを洗い出し、サプライヤに発注する流れとなる。ここで、受注した案件は、工事番号(Construction Number)で管理されるが、一つの機械に対して複数の設計図が作成されるため、設計段階では、設計図番号(Blueprint Number)が用いられる。さらに、資材・パーツの洗い出しにはパーツ番号(Parts Number)が、調達時には、複数のパーツがいくつかにまとめられて調達要求が出される。この時は、調達要求番号(Procurement Request Number)が付番される。さらに、複数の調達要求は、サプライヤ毎に集約されて発注が行われる。ここでは発注番号(Order Number)が管理用のIDとなる。

図2 受注から資材調達までのプロセス例(エンジニアリング会社)
1台の機械受注に対して複数のBluleprint、Parts、Procurement Request、Orderが紐づけられ、ひとつの案件IDだけでは適切な分析が行えない

 このように、ひとつの案件が処理されていく中で、集約されたり(Convergence)、拡散したり(Divergence)するプロセスが実務ではごく普通に見られる。従来のアプローチでは、プロセス開始時の工事番号を案件IDとして資材調達までを一気通貫に分析することになるが、途中に集約や拡散が存在していると、実態とはかけ離れたプロセスが再現されてしまう。(例えば、拡散している箇所は単なる繰り返しタスクとして認識されるなど)


 このConvergence/Divergence問題は、プロセスマイニングの分析品質を左右する最大の課題と言える。そこで、近年では、プロセスマイニングのゴッドファーザー、Wil van der Aalst教授が率いる研究者たちが「Object-Centric Process Mining」(1)と称する独自の方法論により当課題の解決に取り組んでいる。 また、myInvenioには、マルチレベルマイニングという機能が実装されており、一つのプロセスについて複数の案件IDを設定することで、プロセスの集約・拡散の状況を加味したフローの再現を実現している。


 今後の進化の方向性

 プロセスマイニングは、データ分析の枠を超えて、業務支援ソリューションとしての役割も果たしつつあることは前述した。ここでは、プロセスマイニングは今後、どのように進化していくのか、俯瞰的な視点で述べてみたい。

3.1 プロセスマイニング1.0

プロセスマイニングは。現状のプロセスをデータから自動再現する「プロセス発見」が基本機能であった。これは、現状をありのままに描きだすという点において「記述的分析(Descriptive Analysis)」である。
ただし、本来やりたいことは、プロセスに潜む非効率性やボトルネックなどの問題個所の抽出である。つまり、どこが悪いのか、を探し出さなければならない。そこで、この部分の処理時間が長すぎる、あるいは繰り返しが多いなど、容易に問題と思われる個所を教えてくれる機能が付加されている。診断的分析(Diagnostic Analysis)に属する機能である。プロセスマイニングツールでは、一般に「根本原因分析(Root Cause Analysis)」と命名されている。
以上は、過去データを対象とする分析機能であり、プロセスマイニング1.0と呼ぶべきものであろう。

図3 プロセスマイニングの進化
プロセスマイニングの機能は、プロセスマイニング1.0から2.0へと大きく進化しつつある

3.2 プロセスマイニング2.0

 プロセスマイニングの分析対象として、未完了、すなわち現在進行中の案件データをリアルタイムに取り込むようになると、逸脱の発見に加えて、現在走っている案件はあとどのくらいで完了しそうなのか、といった所要時間の予測や、将来に発生するかもしれない逸脱の予測も可能になる。こうした予測的分析(Predictive Analysis)が実装されたツールも増えつつある。
 さらには、予測結果に基づいて、所要時間を短縮するために、あるいは将来の逸脱発生を未然に防ぐために、今どのような対応を行うべきかを提案する機能を持つツールも登場しつつある。これは「処方的分析(Prescriptive Analysis)」の機能である。


 こうした未完了データを扱うプロセスマイニング分析は、既存のプロセスマイニング1.0を大きくバージョンアップするものであり、プロセスマイニング2.0と呼ぶことができるであろう。
予測的分析、処方的分析は未成熟であり、その信頼性は必ずしも高いとは言えないが、今後のさらなる技術進展を通じて、ERPなどのエンタープライズシステムに基づく円滑な業務遂行を支援する価値あるソリューションとして多くの企業への導入が進むことは間違いないと思われる。


Latest Process Mining Functionality, Challenges, and Future Evolutionary Trends

1 Latest Functions of Process Mining

Process mining tends to attract attention in terms of technology and tools, but its essence is a theoretical system and methodology (discipline) of data analysis. In fact, as the term “process” mining suggests, it can be considered as a type of data mining. However, unlike data mining, which is a broad concept that targets all kinds of events for analysis, process mining literally targets “processes” for analysis. The basic use of process mining is “process visualization,” and the visualization of processes facilitates the discovery of problems associated with the target processes. As a result, it can play a significant role in process improvement efforts.

1.1 Current Major Functions

As mentioned above, the research of process mining has started from the establishment of the methodology of “process visualization” and the development of tools. It is a function to automatically create a flowchart showing business procedures based on data extracted from IT systems used for business execution, and is called “Process Discovery. Since then, various functions have been implemented as research has progressed and tools have become more sophisticated. The following are the main analysis functions implemented in most of the current process mining tools.

Process Discovery

automatically create a flowchart of business procedures and calculate the frequency of work and time required.

Conformance Checking

compares and analyzes the current process (as-is) discovered based on data with the standard process (to-be), and extracts deviations from the current process.

Dashboards

A function to display the results of aggregation and analysis of target processes from various perspectives in various graphs and tables.

1.2 Latest Functions

In addition, in recent years, the most advanced process mining tools have begun to include the following latest functions.

Business Rule Mining

When there is a flow branching (decision node) in a target process, it automatically discovers the criteria (business rules) that determine the routing based on the data.

Simulation (What-If Analysis)

Simulate how much improvement can be expected by eliminating or automating some of the tasks in the current process visualized by the process discovery function.

Operational Support

For projects that are currently in progress, the system absorbs data related to business execution in real time, detects deviations in business operations, predicts future problems, and alerts the person in charge, suggests the best course of action, or automatically implements improvement measures.

Of the three latest functions mentioned above, business rule mining and simulation analyze past data, i.e., data that has already been completed, while operational support focuses on supporting smooth business execution by sequentially processing data related to unfinished projects. In this sense, it can be said that operational support is a form of IT solution that goes beyond the framework of analysis methodology. For this reason, Ceronis, the largest company in the process mining industry, calls this function “EMS (Execution Management System).

2 Issues to be overcome to make process mining better to be used

As seen in the acquisition of Signavio, a major tool vendor, by SAP and myInvenio by IBM, process mining is increasingly recognized as an important tool that is part of IT solutions. However, there are issues that need to be overcome in order for it to be used properly in business practices and to bring results. In this section, I would like to present the main issues from two perspectives.

2.1 Difficulties in data preprocessing

In data mining, it is said that about 80% of the total time required is spent on data preprocessing such as data collection, extraction, and cleaning. The same is true for process mining. It takes a lot of effort to properly integrate dozens to hundreds of data files extracted from various IT systems, to correct dirty data such as omissions and garbled characters, and to create a “data set” that can be fed into tools for analysis. Factors that make data pre-processing in process mining difficult include the fact that the source of data extraction is various business systems, and thus an understanding of the business systems is necessary. In addition, in order to create a data set to derive analysis results that contribute to business process improvement, it is necessary to understand the business itself and to have some familiarity with business improvement methods.

2.2 Analysis quality of tools

There are two issues that need to be addressed regarding the quality of analysis. One is the limitation of DFGs (Directly Follows Graphs), and the other is the Convergence/Divergence problem.

2.2.1 Limitations of DFGs

The basic function of process mining, “process discovery,” was initially based on Petri nets, but various algorithms have been developed to reproduce flowcharts closer to reality. However, according to industry experts, most of the process mining tools currently in practical use are said to be based on an algorithm called fuzzy miner (each company is believed to have made its own improvements).  

This algorithm is commonly called DFGs (Directly-follows Graphs). Unlike Petri nets and BPMN (Business Process Modeling and Notation), which is the world standard for describing business procedures as flowcharts, DFGs are flowcharts in which nodes are directly connected to each other (directly). In other words, since branching nodes are not drawn, the algorithm cannot grasp where and how the branching is occurring, specifically, whether it is exclusive (OR) or concurrent (AND). For this reason, even if the current process is automatically reproduced, the reality is that the branching is not clear and incomplete. Of course, functional improvements have been made in this regard, such as automatic conversion to BPMN format flowcharts and the adoption of business rule mining as mentioned above.

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2.2.2 Convergence/Divergence Problem

In process mining, three items, “case ID,” “activity (event),” and timestamp, are essential to draw a flowchart by bundling each activity performed for a case processed in the target process. For example, in the case of an invoice processing process, the individual invoice number attached to each invoice and the activities such as “receipt,” “confirmation,” “approval,” and “payment” for that invoice are extracted from the IT system along with the time stamp.

What we often face in the actual process is that there is no single case ID. Let’s take a concrete example. The figure below shows a general image of the process of an engineering company from order receipt to material procurement.

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Since the ordered machine must be manufactured based on the specifications of the ordering company, after receiving the order, the company first designs the machine, then identifies the necessary materials and parts based on the blueprint, and then places an order with the supplier. Since multiple blueprints are created for a single machine, the Blueprint Number is used in the design stage. In addition, the Parts Number is used to identify materials and parts, and at the time of procurement, multiple parts are combined into several parts and a procurement request is issued. In this case, a Procurement Request Number is assigned. In addition, the multiple procurement requests are aggregated to each supplier and an order is placed. In this case, the Order Number becomes the ID for management.

In this way, the processes of convergence and divergence are commonly seen in practice as a single case is processed. In the conventional approach, the construction number at the beginning of the process is used as the case ID, and the entire process is analyzed up to the procurement of materials, but if there is convergence or divergence in the process, a process that is far from the actual situation is reproduced. (For example, the diffused part is recognized as a mere repetitive task.)

This Convergence/Divergence problem is the biggest issue that affects the analysis quality of process mining. In recent years, researchers led by Professor Wil van der Aalst, the Godfather of Process Mining, have been working on solving this problem using a unique methodology called “Object-Centric Process Mining” .

3 Future Direction of Evolution

We have already mentioned that process mining is playing a role as a business support solution beyond the framework of data analysis. In this section, we will discuss how process mining will evolve in the future from a bird’s eye view.

3.1 Process Mining 1.0

Process mining is. The basic function of process mining was “process discovery,” which automatically reproduces the current process from data. This is a “Descriptive Analysis” in that it depicts the current state as it is.

However, what we originally wanted to do was to extract problem areas such as inefficiencies and bottlenecks hidden in the process. In other words, we need to find out what is wrong with the process. Therefore, there is an additional function that can easily tell us where the problem is, such as the processing time of this part is too long or there are too many repetitions. This is a function that belongs to Diagnostic Analysis. In process mining tools, it is generally named “Root Cause Analysis.

The above is an analysis function for historical data, and should be called Process Mining 1.0.

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3.2 Process Mining 2.0

When process mining starts to take in uncompleted, i.e., ongoing, case data in real time as a target of analysis, it becomes possible not only to detect deviations but also to predict how long it will take to complete the currently running case, and to predict deviations that may occur in the future. In addition, it is possible to predict how long it will take to complete a case that is currently running, and to predict future deviations. The number of tools that implement such predictive analysis is increasing.

Furthermore, based on the prediction results, tools that can suggest what actions should be taken now to shorten the time required or to prevent future deviations from occurring are also emerging. This is the function of “Prescriptive Analysis”.

Such process mining analysis that deals with incomplete data is a major upgrade of the existing process mining 1.0, and can be called process mining 2.0.

Although predictive and prescriptive analyses are still in their infancy and their reliability is not necessarily high, it is certain that they will be introduced to many companies as valuable solutions to support smooth business execution based on enterprise systems such as ERP through further technological progress in the future.

プロセス発見技法の基礎

The Basics of Process Discovery Methods from BPM point of view.

今回は、BPM(Business Process Management)の視点から、「プロセス発見技法」について包括的な解説を行います。したがって、当記事における「プロセス発見技法」には、プロセスマイニングによる、イベントログに基づくプロセス発見(ABPD: Automated Business Process Discovery)だけでなく、従来の手法も含まれます。

プロセス発見の定義

プロセス発見は、現在のプロセス、すなわち現在の業務手順とそれを遂行する組織体制についての情報を収集し、それを現状プロセスモデル(as is processs model)として描くことです。

ここで、プロセスモデルとは、現実に起きている業務手順を模したものです。粒度粗く、ざっくりと描いたり、できるだけ詳細に描いたり、目的によって再現度合いは異なります。しかし、あくまでリアルな現状に似せたものであるという点をご理解ください。(例えば、戦艦のプラモデルは、実際の戦艦に可能な限り忠実に製造されていますが、縮尺も違いますし、プラモデルとして再現するため、一部省略されている箇所があったりします。)


プロセス発見の課題

プロセス発見に取り組む上で一般に以下の3つの課題があります。これらは、対象とする業務プロセスに関わる人々の認知(ものごとに対する知識や理解、判断のあり方)の制約がもたらすものです。

1 プロセスに対する断片的な知識しか存在しない

現在の企業・組織の業務プロセスの多くは、複数の部署にまたがる長く、複雑なタスクの集合体です。各タスクにはそれぞれなんらかな専門知識やスキル、経験が要求されますし、部署も異なることから、調達プロセスにしろ、受注プロセスにしろ、数十人から、大企業なら数百人が分担してプロセスを回しているのが現実です。

したがってエンド・ツー・エンド(調達プロセスなら、購買要求申請から発注、納品を経て、請求書への支払いが完了するまで)での一連のプロセスを発見するためには、多数の関係者からそれぞれが持つ断片的な情報を集め、組み立てなおす必要があります。


2 現場の担当者は俯瞰的にプロセスを捉えていない

プロセスを構成する様々なタスクを遂行する各担当者は、与えられた役割、責務のなかで日々、業務をこなすことに注力しています。例えば、購買部の担当者は、各部署から上がってくる購買申請を一件一件、内容に不備がないか確認し、不備がなければ次の工程に回し、不備があれば差し戻す、というように、案件単位で業務を行っています。

したがって、現場担当者は、「どのように業務を行っていますか」という質問には簡単に答えることができますが、多くの場合、自分が行っている業務手順がおおよそ何パターンくらいあり、それがどのような条件で分岐していくのか、といった俯瞰的な見方をしたことがないため、漏れなく業務手順を語ることは苦手です。現場担当者が業務を一番理解しているはず、というのは必ずしも真実ではなく、一般化して説明できるほど包括的に理解しているわけではないのです。


3 現場担当者はプロセスモデリングに長けていない

プロセス発見では、「BPMN(Business Process Modeling and Notation)」などの表記法を用いて、業務手順を示したフローチャートを作成するのがゴールです。このフローチャートを作成することを「プロセスモデリング(プロセスマッピングとも言う場合がある)」と呼びます。

プロセスモデリングで描かれたフローチャートはBPMN以外にもいろいろとありますが、比較的素人でも理解しやすいとはいえ、複雑なものになると、ある程度の知識や経験がないと読み解くのが難しくなります。当然ながら、プロセスモデリングの能力を持つのは、プロセスアナリストなどの専門職であり、一般のビジネスパーソンはBPMNの言葉さえ知らない人がほとんどでしょう。

さて、対象プロセスについて現場担当者にヒアリングした後、プロセスアナリストがBPMN形式のプロセスモデルを作成したら、そのプロセスモデルが現状を適切に反映しているかを現場担当者に確認する必要があります。ここで、BPMNに慣れていない現場担当者としては、そもそもプロセスモデルを理解するのに苦労するというわけです。


プロセス発見技法

プロセスモデルを作成する対象となる業務プロセスについての情報を集める方法としては大きくは3つあります。

1 根拠に基づく発見 - Evidence-Based Discovery

ー 書類分析:

対象プロセスのマニュアルや要件定義書などの関連書類から、業務の流れに関わる情報を拾います。

ー 観察調査:

現場担当者が実際に業務を行っているところに立ち会って逐次記録したり(シャドウイング)、動画に収めて後日分析を行います。

ー プロセスマイニング(ABPD: Automated Business Process Discovery):

対象プロセスがERP、CRMなど業務システム上で実行されている場合、当該システムからイベントログ(トランザクションデータ)を抽出し、プロセスマイニングツールにより、自動的にプロセスモデルを作成します。


2 ヒアリングに基づく発見 - Interview-Based Discovery

文字通り、現場担当者に時間を作ってもらい、ヒアリング(英語ではInterviewと呼ぶことが一般的)を行って業務の流れについての情報を収集します。

ここで、前項のプロセス発見の3つの課題をできるだけ克服できるよう、ヒアリングを行うプロセスアナリストは、優れたインタビュースキル、コミュニケーションスキルを有していることが求められます。


3 ワークショップに基づく発見 – Workshop-Based Discovery

ワークショップでは、1対1のヒアリングと異なり、対象プロセスに関与する複数の部署から多くの現場担当者が一堂に会し、付箋紙などを用いながら、その場で業務フローを簡易的に描いていきます。

一連のプロセスの前工程、後工程の各担当者が自分の担当タスクを説明しつつ、前後の担当者と議論をしながらプロセスの流れを明らかにしていくことができるワークショップでは、プロセス発見の3つの課題のうち、断片的な知識を補うことができますし、俯瞰的なプロセス理解もある程度深めることが可能です。

また、ワークショップに担当役員や社長が同席する場合もあります。これは、プロセス改善の取り組みが全社的である場合、会社としての本気度を示し、関係者のモチベーションを高めることに意義があります。

ただし、ワークショップは関係者一同を集め、長時間拘束する必要があることから、日程調整に骨が折れるという問題があります。


各手法の違い

前項の3つのプロセス発見技法の特徴の違いについて見てみましょう。

比較する視点としては、「客観性」、「情報の豊富さ」、「所要時間」、「フィードバックの速さ」の4つです。

comparison three process discovery methods
出所:Fundamentals of Business Process Management

客観性の視点では、エビデンスベース、すなわち関連書類や、観察調査、プロセスマイニングが優れています。ヒアリング、ワークショップは、基本的に現場担当者の「記憶」を引き出しているだけ、ということですから、主観的な要素が大きくなります。

情報の豊富さ、という視点では、現場担当者から詳細な情報を引き出せるヒアリングやワークショップが優れています。

所要時間としては、現場担当者にあまり負担をかけることのないエビデンスベースが優れています。ヒアリングやワークショップは、日程調整が大変ですし、現場担当者にそのための時間を割いてもらわなければなりません。

フィードバックの速さというのは、その場で聞き直したり確認が行えることを意味しています。これはヒアリングやワークショップが当然ながら優れています。

プロセスマイニング活用を前提としたプロセス発見の基本手順

最後に、対象となる業務プロセスがERPなどの業務システム上で大半が実行されており、プロセスマイニング活用が有効である場合のプロセス発見の基本手順を解説します。

1.書類分析

まず、分析対象となる業務プロセスに関する書類(マニュアル、要件定義書など)が存在しているかどうかを確認し、できるだけ多く収集します。もし、書類の中に、標準的な業務手順のフロー図があれば、それは「標準プロセス(to beプロセス)」として、適合性検査に役立てることができます。

2.プロセスマイニング

プロセスマイニングを実行するにあたっては、対象プロセスのイベントログをITシステムから抽出すると同時に、対象プロセスの概要を理解するための基本的な情報、すなわち、おおよその処理件数(月当たり、週当たりなど)、おおよその平均処理時間(スループット、サイクルタイム)、担当部署などについて、最低限ヒアリングする必要があります。「プロセスセットアップ」と呼ばれる作業ですが、これはおおむね短時間で済みます。

3.ワークショップ

プロセスマイニングによって自動的に再現されたプロセスフローチャートを検証し、特定された非効率な箇所、ボトルネックなどの原因を探るために、関係者を集めてワークショップを開催することが効果的です。

プロセスマイニング活用を含むプロセス発見においては、ワークショップの場はプロセスを発見するだけでなく、問題の根本原因を追及していく機会にもなります。

4.ヒアリング

ワークショップの開催が難しい場合、対象プロセスに関わる現場担当者のうち、キーパーソンや、また非効率な箇所、ボトルネックに関与している担当者と個別ヒアリングの場を設定することも有効です。

留意していただきたいのは、ここでもプロセスを発見することではなく、特定された問題の根本原因を明らかにすることに重点が置かれること、また個人の責任を問うたり責める場ではないことです。


以上の流れはあくまで標準的なものであり、プロジェクトの期間や予算、体制などを考慮して柔軟な進め方を行いましょう。

なお、プロセス発見の詳細解説は、以下の参考図書をお読みください。

『Fundamentals of Business Process Management』(Marlon DUまs、Marcello La Rosa, Jan Mendling, Hajo A. Reijers, Springer)

ビジネスプロセス治療法

how to cure bad process

How to cure a process with problems
English follows Japanese. Before proofread.

今回は、プロセスマイニングを活用して、ビジネスプロセスを改善する流れを病院での治療の手順と対照させながら説明します。

プロセスマイニングは、イベントログデータから、見えなかったビジネスプロセスを可視化することで、プロセスに潜む様々な課題・問題を発見することを目的としています。

この「プロセスを可視化する」という点から、プロセスマイニングはしばしばX-ray、すなわちレントゲンに例えられます。ただ、病気の治療と同様、病巣(課題・問題)を発見して終わりではなく、適切な治療(改善施策)を施し、健康な状態に戻す、すなわち改善された「理想プロセス」を実現することが最終目的です。

では、まず病院における医療活動の流れを概説しましょう。大きくは、「診断ステージ」と「治療ステージ」の2段階に分けています。


医療活動

診断ステージ

患 者

発熱、咳などなんらかの症状を抱えた患者の来院が治療の起点となります。

問 診

まずは、現在の症状の程度などについて質問し問診を行います。

レントゲン

X-ray機器を用いて、病巣が存在すると思われる箇所を撮影します。

レントゲン写真

X-ray写真を見ながら、病巣の有無を確認します。

診 断

X-ray写真の結果から、どのような病気に罹患しているか判断します。

身体診査

さらに、さまざまな検査を行い、上記診断結果が正しいかを検証します。


治療ステージ

治療方針

診断結果に基づき、また患者の意向も踏まえて治療方針を行います。たとえば、外科手術を実施するか、薬物治療をどのように行うか、などについてです。

手 術

病巣を除去するほうが良い場合、手術を行います。

医薬品

医薬品だけ、また手術と併せて医薬品を投与して治療を行います。

治 癒

病因が除去され、症状がなくなりました。治療完了です。


次に、上記病院での診断・治療の流れに沿って、ビジネスプロセス改善の手順を概説します。


ビジネスプロセス改善

現状把握 - 診断ステージ

問題プロセス - 患者

スループットが長い、運営コストが高い、顧客からの苦情が寄せられている、など、なんらかの現象としての問題が発生しているプロセスを改善すべき対象として選択します。

プロセスセットアップ - 問診

プロセスの概要、処理件数、担当部署・担当者など、改善対象プロセスに関わる基本情報を主にインタビューを通じて整理します。プロセスに関わるシステムの仕様書やマニュアルなどがあれば、それらも併せて内容を確認します。

プロセスマイニング - X-ray(レントゲン)

改善対象プロセスのイベントログデータを元にプロセスマイニングツールを用いて分析を行い、現状プロセスのフローチャートを作成します。

現状プロセス - X-ray写真(レントゲン写真)

現状プロセスについて、頻度別、所要時間別など様々な切り口での分析を行います。

問題・課題発見 - 診断

上記分析結果から、現象としての問題・課題を引き起こしている箇所、すなわち、時間がかかりすぎている非効率な手順や、待ち案件が積みあがっているボトルネックなどを特定します。

現場インタビュー・観察 - 身体診査

特定した問題箇所について、現場の担当者に対するインタビューや観察調査などを行い、根本原因の究明を図ります。

プロセスの非効率性やボトルネックを発生させている根本原因としては、あまり意味のない手順が多い、ミスが多く、やり直しをするケースが多い、処理すべき案件にたいしてアサインされている担当者数が少ない、などがあります。


改善活動 - 治療ステージ

改善方針 - 治療方針

プロセスに関わる様々な問題・課題、それらを引き起こしている根本原因が判明したら、改善施策を立案します。

大きな改善方針としてはまず、スループットを短縮する、コストを削減する、顧客満足度を向上する、など目的を明確化することが重要です。

改善施策実行 - 手術・医薬品

改善施策には大掛かりなものからちょっとした修正まで様々な選択肢がありえます。

ゼロベースでプロセスを組みなおすようなBPR(Business Process Re-engineering)は、外科手術にたとえることができるでしょう。マニュアルの業務をRPAのソフトウェアロボットに代替するのは、人工心臓に取り換えるようなものと言えるかもしれません。

ちょっとした手順の変更を行うだけで所要時間が改善できるとしたら、それはシンプルな薬物療法で治療できる病気だったとなるでしょう。

改善プロセス ー 治癒

有効な改善施策を展開した結果、望ましいプロセスが実現できたらひとまずプロジェクト完了です。


病気の治療において、定期検診が必要なように、問題が再発しないか、新たな問題が発生しないか、継続的に対象プロセスを監視することが必要です。


How to cure a process with problems

In this article, I’ll explain the flow of using process mining to improve business processes, contrasting it with the procedure of treatment in a hospital.

Process mining aims to discover various issues and problems hidden in the process by visualizing invisible business processes from the event log data.

In terms of this “visualization of the process”, process mining is often likened to an X-ray. However, just as in the treatment of diseases, the ultimate goal is not the discovery of the lesion (Inefficiencies and bottlenecks) but the implementation of appropriate treatment (improvement measures) and the return to a healthy state, in other words, the realization of an improved “ideal process(to be proess)”.

Let’s start by outlining the flow of medical activities in a hospital. Broadly speaking, there are two stages: the “diagnostic stage” and the “treatment stage”.


●Medical activities

Diagnostic stage

Patient

The starting point for treatment is when a patient comes in with some kind of symptom such as fever or cough.

Preliminary interview

First, we will ask questions about the extent of your current symptoms and conduct an interview.

X-rays

Using an X-ray machine, the area where the lesion is thought to exist will be photographed.

x-ray photograph

The presence of the lesion is confirmed by looking at the X-ray photograph.

Diagnosis

From the results of the X-ray photos, you can determine what diseases the patient have.

Physical examination

In addition, various physical exam and tests will be performed to verify the correctness of the above diagnosis.


●Treatment Stage

Treatment policy

The course of treatment is based on the results of the diagnosis and the patient’s wishes. For example, it’s about whether to carry out surgery or how to treat medication.

Surgery

If it is better to remove the lesion, surgery will be performed.

Medication

The treatment is performed by administering medications alone or in conjunction with surgery.

Recovery

The etiology has been eliminated and the symptoms are gone. Treatment is complete.


Next, we’ll outline the steps to improve business processes along the path of diagnosis and treatment at the above hospital.


●Business Process Improvement

Understanding the current situation – Diagnostic stage

Process with problems – Patient

Select processes that are experiencing problems as phenomena, such as long throughput, high operating costs, customer complaints, etc., as targets for improvement.

Process Setup – Preliminary interview

Basic information related to the process to be improved, such as an overview of the process, the number of processes, and the department or person in charge, will be organized through interviews. If there are any specifications or manuals for the system involved in the process, check them as well.

Process Mining – X-ray

Based on the event log data of the process to be improved, we analyze it using a process mining tool and create a flowchart of the current process.

As is process – X-ray photograph

We analyze the current process from various perspectives, such as frequency and time required.

Problem identification – Diagnosis

Based on the results of the above analysis, we identify the areas that are causing problems or issues as a phenomenon, i.e. inefficient procedures that are taking too long, or bottlenecks that are piling up pending cases.

On-site interview and observation – physical examination

To identify the problem areas, we conduct interviews with the person in charge at the site and conduct observational surveys to identify the root cause.

The root causes of process inefficiencies and bottlenecks are: too many meaningless steps, too many mistakes, too many reworkings, and too few people assigned to deals that need to be done.


Improvement Activities – Treatment Stage

Improvement Policy – Treatment Policy

Once we have identified the various problems and issues related to the process and the root causes of these problems and issues, we plan improvement measures.

As a major improvement policy, it is important to first clarify the objectives, such as reducing throughput, reducing costs, and improving customer satisfaction.

Implementation of improvement measures – Surgery and Medication

There are a variety of options for improvement measures, ranging from major to minor modifications.

BPR (Business Process Re-engineering), which is a zero-based re-engineering of the process, can be compared to surgery. Replacing manual tasks with RPA software robots might be like replacing an artificial heart.

If a small change in procedure could improve the time required, it would be a disease that could be treated with simple medication.

Improved Process (To be process) – Recovery

Once the desired process has been achieved as a result of effective improvement measures, the project is complete.


Just as regular check-ups are necessary in the treatment of a disease, it is important to continuously monitor the target process to ensure that problems do not recur or new problems arise.

プロセスマイニングとデータマイニング・AI、BPMとの関係

process mining and data mining and BPM

How process mining can relate to data mining, AI and BPM.

プロセスマイニングと密接な関係がある隣接分野があります。ひとつはデータマイニング・AI、もうひとつはBPM(Business Process Management)です。

今回は、どのように関係があるのかを簡単にご説明しましょう。

まずは「データマイニング・AI」とは何かから説明します。データマイニングは、基本的にビッグデータを対象とした分析手法であり、その主な目的はものごとの因果関係や典型的なパターンのような「法則性」を発見して、様々な意思決定に役立てることです。

例えば、各地の気温、湿度などの天候情報を大量に収集し、データマイニングでそのデータを分析することで、どのような状況において晴天になりやすいのか、それとも雨天になりやすいのかの予測式がつくられ、天気予報に活用されています。

データマイニングでは、数十年前から活用されてきた「多変量解析」の手法、例えば、回帰分析や、クラスター分析、決定木分析に加え、近年は主にニューラルネットワークによるディープラーニングが飛躍的な進歩を遂げ、ものごとを判別したり、予測する精度が大きく向上しています。一般に、これらの分析手法のことは「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」と呼ばれますが、AIはデータマイニングにおいて頻繁に利用される手法なので、当記事では「データマイニング・AI」と一括りにしています。

さて、データマイニングはあらゆる分野のあらゆるビッグデータを分析対象としますが、基本的に「プロセス」を対象とはしてきませんでした。ある瞬間、すなわちスナップショット的な静的なデータを抽出して、要約したり、分類したり、因果関係を見出してきたりしたのです。

一方、プロセスマイニングは、文字通り、時系列のひとつながりになった動的なデータから、プロセスの流れを描き出すこと、すなわち「プロセスモデル」を作成することが基本にあります。もちろん、プロセス処理件数や処理時間など、プロセスに関わる静的な各種統計量も併せて算出する点は、データマイニングと共通しています。

こう考えると、データマイニングとプロセスマイニングは、分析手法としては兄弟分のようなものです。(どちらにも「マイニング」という言葉が含まれていますし)

ただ、プロセスマイニングを主体に考えると、プロセスに関わる様々な分析を深めていくうえで、データマイニング、AIの手法が応用されています。例えば、現在処理中の案件(ランニングケース)の終了までのリードタイムを推測するためには、データマイニングにおける「予測分析」が採用されています。

それ以外にも、必要に応じて、クラスター分析や決定木分析などが活用可能であり、今後も、プロセスマイニングツールとしての分析の幅や精度を高めるためにデータマイニングの手法がプロセスマイニングに取り入れられていくと考えられます。

では次に、BPM(BPM)について考えてみましょう。BPMはシンプルにいえば、プロセスを改善することを目的として、プロセスの現状を分析し、問題点を解消するto beプロセスを設計し、現場に展開・監視を行う一連の活動です。

このBPMの活動のうち、とりわけ「現状分析」において、プロセスマイニングの基本アプローチのひとつ、「プロセス発見」は役立ちますし、その後の設計、展開、監視においても、プロセスマイニングが提供できる「適合性検査」、「プロセス強化」のアプローチはBPMにとって強力な武器となりえます。

このように、プロセスマイニングとデータマイニング・AI、BPMはお互いに補完しあえる関係にあると言えます。プロセスマイニングのゴッドファーザー、Wil van der Aalst教授は、「プロセスマイニングは、データマイニングとBPMをつなぐ橋である」と述べられていますが、まさに、BPMの取り組みにおいて、プロセスに特化したデータマイニングとしての「プロセスマイニング」は大きな役割を果たしていくと思われます。