プロセスマイニング入門(11)適合性検査

Introduction to Process Mining (11)Conformance Checking

今回は、「適合性検査」のアプローチについて詳しく解説します。

適合性検査 - Conformance Checking

適合性検査は、ひとことで言えば標準プロセスからの逸脱があるかどうかを確認する分析手法です。

ここで、「標準プロセス」とは、あらかじめマニュアルなどに示されている規範となる「正しい手順」、あるいは例外処理がなく、円滑に業務が遂行された場合の一般的な手順のことです。

標準的なプロセスは基本的に無理・無駄がなく、スループットも最短、コストも最小であることから、すべての案件が標準的なプロセスに沿って行われるのが理想です。しかし、現実には、マニュアル通りに業務が行われるとも限りません。また例外処理もやむを得ず発生することでしょう。

そこで、プロセスマイニングでは、標準となるプロセス(to beプロセス)と、イベントログから再現した現状プロセス(as isプロセス)の比較分析を行い、標準プロセスを正とした場合に、現状プロセスがどの程度適合しているかを詳細に検証します。だから「適合性検査」なのです。

以下のイメージ図では、左側にto beプロセス、右側にas isプロセスのフローチャートが表示されています。これは、購買プロセス(PtoP)における適合性検査となります。

さて、to beプロセスは購買申請から納品までなんの問題もなく円滑に業務が行われた場合の手順です。これを基準にas isプロセスを見ると2つの逸脱が存在していることがわかります。

ひとつは、購買承認のアクティビティから、その前の購買申請のアクティビティへと戻る流れが発生しています。購買申請内容になんらか不備があり、購買申請者に戻された(再申請要求)ものと考えられます。

もうひとつの逸脱は、見積もり依頼のアクティビティで繰り返しが発生していることです。サプライヤ(商社)に対してなんどか繰り返し見積依頼が行われたことがうかがわれます。

上記2つの逸脱はもちろん、現実には起こりうる想定内の逸脱ではあります。大事なのは、逸脱をゼロにすることは不可能としても、逸脱をできるだけ減らすことにより、明確に工数が削減でき、スループット短縮、処理コストの低減が目指せることです。

たとえば、購買申請内容に不備があることで購買部からの戻しがあり、購買の再申請を行うケースが多い場合、申請前に内容不備を減らすような工程を増やしたり、システム上のチェック機能を追加するなどの改善施策が考えられます。こうした改善施策によって再申請回数を減らすことが重要なのです。

conformance checking

逸脱の2つのパターン

標準プロセスに対する現状プロセスの逸脱(適合していないこと)には、大きくは2パターンあります。

1 標準プロセスには含まれていない手順・アクテイビティが発生している

やってはいけないこと、やらないほうが望ましいことを実施している、という逸脱です。前項の解説でしめした「戻り」や「繰り返し」は、やらないほうが望ましいけれど実施しているケースがあるというもの。

また、購買プロセスではしばしば、購買承認を得る前に発注が行われるケースがあります。急を要するので購買承認が下りる前に発注せざるを得ない、ということは現実には起こります。この「購買承認前発注」は、英語では「マーベリックバイング」と呼ばれる逸脱です。コンプライアンス上、厳密に言えば「行ってはならないプロセス」でしょうし、行うことがやむを得ないのであればできるだけ減らすべきプロセスでもあります。

2 標準プロセスに含まれている手順・アクティビティを実施していない

やるべきことをやっていない、端折っている、という逸脱です。

これは、製品の検査プロセスにおいては大問題となりかねない逸脱だと言えるでしょう。本来実施すべき検査工程が、なんらかの理由で端折られてしまうといいう状況は様々な現場でしばしば観察されることです。しかし、その結果として、製品が世の中に出たとき、損害賠償につながるような大事故を起こしたり、リコールによる製品回収となった場合の損害は多大なものとなります。

したがって、検査工程がある程度ITシステムで管理されており、イベントログを通じて検査プロセスの見える化が可能であれば、ぜひこのやるべきことをやっていない逸脱の検査を行うべきでしょう。

to beプロセスの設定

適合性検査を行いたいが、そもそもto beプロセス、すなわち標準プロセスを規定していない、マニュアルなども存在しないというケースがあります。むしろ、事前に標準プロセスが確立されているケースよりも、標準プロセスは明文化されていないケースのほうが多いと言えます。

プロセスマイニングツールを用いて適合性検査を行う場合、as isプロセスの元となるイベントログのアップロードとは別に、to beプロセスのデータをアップロードする必要があります。ここでto beプロセスを作成する方法には2つあります。

1 to beプロセスをモデリングツールで作成

対象プロセスを実行しているITシステムのドキュメントやマニュアルに標準的な手順が示されていた場合、これをベースにモデリングツールを用いてBPMN形式でプロセスフローチャートを作成します。この作成したto beプロセスをプロセスマイニングツールにアップロードします。

2 as isプロセスから、to beプロセスを抽出

イベントログから再現したas isプロセスには多くのバリエーションが存在します。プロセス発見の「バリアント分析」によって、どのようなプロセスパターンがあるかを検証、その中で理想的なプロセスがあれば、それをto beプロセスとして抽出、必要に応じて整形を行った後、プロセスマイニングツールに再投入すれば、他のプロセスパターンとの適合性検査が可能となります。