Innovation method portfolio useful for business innovation
新型コロナにより、社会の在り方が大きく変化しつつあります。厳しい行動制限が解除された後の「Post Corona」の時代においても、私たちは新型コロナと折り合いをつけて生活していかざるを得ないため、「Before Corona」と同じ姿に戻ることはないでしょう。
さて、経済の担い手である企業は、あらゆる分野において急速に進展するデジタル化への対応のため、コロナ以前から「DX」、すなわちデジタル変革の推進に取り組んできました。とはいえ、旧来の慣れ親しんだやり方からの脱却は簡単ではなかった。ところが、新型コロナという非常事態によって、ほぼすべての企業が、デジタルを活用した事業革新に本腰を入れざるをえなくなりました。
今回は、事業革新に取り組むために役立つ様々な手法の位置づけについて解説します。
下図に示したのは、4つの次元で各種革新手法を位置付けたものです。「イノベーション手法ポートフォリオ」と呼ぶことにします。
■横軸:内的(Internal) ⇔ 外的(External)
横軸は「内的(Internal)」と「外的(External)」の2つです。
「内的」とは、社内のやり方、プロセス、資源などに焦点を当てるものです。一方、「外的」は、顧客や競合他社など、外部の情報を積極的に活用します。
■縦軸:分析的(Analytical) ⇔ 創造的(Creative)
縦軸は「分析的(Analytical)」と、「創造的(Creative)」です。
「分析的」とは、文字通りものごとを構造的・分析的に捉えるもので、しばしば定量的なデータの活用が前提となります。
一方、「創造的」とは、ものごとを多面的に捉え、新たな価値を見出そうとするアプローチです。
それでは、4つの次元それぞれに含まれる手法について簡単に解説しましょう。(それぞれの手法の詳細な解説は各自、Google検索などでお調べください)
●分析的 x 内的
現在のやり方を強化するアプローチです。ここには、TRIZ、制約理論、リーンマネジメント、シックスシグマ、BPR(Business Process Re-engineering)が含まれます。革新(Innovation)というよりは、主に改善(Improvement)のための手法です。現在の業務プロセス、業務内容を把握し、非効率性、ボトルネックなどの問題点を発見し、改善施策を講じます。組織再編も含めた、全社的に根本的な改善を行うのがBPRです。
これらのアプローチは、特にムリムダの削減による生産性向上を通じたコスト削減に効果があります。
なお、この次元において、ファクトベースでの価値ある分析手法を提供できるのが「プロセスマイニング」です。
●分析的 x 外的
外部にあるよりよい方法を取り込むアプローチです。この次元には、ベンチマーキング、参照モデリングが入ります。
ベンチマーキングは基本的には、他企業の優れた取り組みと自社を比較して、劣っているポイントを明確化する取り組みです。また、参照モデリングは、自分の業界で標準的な手順、あるいは優れた手順を自社でも採用することでクイックな成果を目指します。
●創造的 x 内的
社内に存在するがまだ活用されていない方法を試すことです。ここには、ポジティブな逸脱やクラウドソーシングが入ります。
ポジティブな逸脱とは、現在主流となっている事業や、人、手順ではなく、傍流にある異端的な事業や、人、手順に着目し、それを全社に展開するような取り組みです。企業内では、異端的なものはしばしばネガティブな「逸脱」と見なされてあまり評価されず、修正を求められます。しかし、こうした逸脱の中には、新たな環境変化に対応できる革新的な事業、人、手順が含まれていることがあるのはご存知でしょう。
クラウドソーシングは、外部的な要素も多分にありますが、様々な知識、知恵、経験を持つ多様な人材を社内資源と組み合わせることで、自社だけで議論していても発想できなかった新たなアイディアを創造します。
●創造的x外的
自社資源に頼らず、新たな方法を創造するアプローチです。SCAMPER 、デザイン思考が含まれます。
ここでは、様々な制約を取り払ってものごとを多面的に考え、また対象顧客を注意深く観察することなどを通じて、柔軟な発想を最大限に発揮しようとします。
さて、以上のアプローチのどれが貴社にとって最適かはケースバイケースであり、一概には言えません。
ただ、ポストコロナの厳しい経済環境においてはまずコスト削減から取り組むべきであり、分析的・内的アプローチである、リーン、シックスシグマなどから事業改善をスタートさせるべきと考えます。業界標準のやり方を取り込む参照モデリング、他社の優れたところを参考にするベンチマーキングも有効でしょう。
ただし、前述したように、分析的なアプローチは現状のやり方の改善までは可能ですが、新たなビジネスモデルを生み出し、イノベーションを実現することは得意ではありません。
例えば、飲食店が、シックスシグマなどにより、来店客に対する店内オペレーションの改善にどれだけ取り組んでも、ステイホームにより高まるテイクアウト需要に応えるための新たな手順を生み出すことはできないのです。
そこで、まずは分析的アプローチで生産性の向上、コスト削減に取り組みつつ、環境変化に適応して売上を大きく伸ばすために採用すべきなのが創造的なアプローチです。
近年、デザイン思考が注目を浴びましたが、最近ではさらにクリエティブな要素が強い「アート思考」のアプローチも登場してきています。
現在のような大きな環境変化においては、事業革新、すなわちビジネスイノベーションが欠かせません。分析的アプローチで足元を固めつつ、創造的アプローチで新たなビジネスモデルを生み出すことが現在の企業には求められていると思います。
(参考文献)